公定価格のうち人件費分はどれくらいか?

保育所の収入である公定価格は、主に「人件費」「管理費」「事業費」に分けられます。今回は、その中で人件費がどの程度を占めるかを計算しました。

基となるデータは、こども家庭庁が公表している『令和5年度における私立保育所の運営に要する費用について』を使用しています。

計算の仮定

令和5年度、定員100名の保育所で、以下の条件を基に計算しました。

  • 加算項目:処遇改善Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ(処遇改善Ⅰの加算率15%)、3歳児配置加算、主任加算、事務加算
  • 地域区分:10/100
  • 毎月の児童数:4歳児以上40人、3歳児20人、1歳児・2歳児30人、乳児10人
  • 全て標準時間で運営、月ごとの変動なし

計算結果

  • 年間収入:11,640万円(処遇改善Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを除くと9,682万円)
  • 管理費および事業費の割合:12%(処遇改善を除くと13%)
  • 人件費の割合:88%(処遇改善を除くと87%)

管理費については、処遇改善Ⅰ(基礎分)にも含まれています。
人件費については、差額で計算しました。

計算結果の妥当性検証

国は、国家公務員給与法に定める俸給表に基づいて算定した人件費をもとに予算を作成し、公定価格の単価を決めています。
また国の文書では、その人件費の年額を参考に記載しています。

地域区分10/100では以下の通りです。

  • 保育士:432万円
  • 所長:527万円
  • 主任保育士:503万円
  • 調理員:367万円

ただし、これらの金額には処遇改善は含まれていません。

計算仮定に記載した児童数から算出される、必要最低限の職員数は以下の通りです。

  • 保育士12人
  • 所長1人
  • 主任保育士1人
  • 調理員2人

各職種について、人件費の年額×人数をすると合計6,948万円となります。
さらに、法定福利費の施設負担分を考えると、6,948万円×1.22で8,476万円となります。
※国が想定する法定福利費の割合を22%として計算しましたが、これは処遇改善Ⅱの単価から推定しています。

処遇改善を除いた収入の9,682万円のうち人件費が87%なので、人件費が8,423万円と算出されます。
この8,423万円という金額は、先ほど参考年収から計算した金額8,476万円と同程度となります。
よって計算は妥当だと思われます。

人件費率について

処遇改善を含めた人件費率は88%ですが、これは収入のほとんどを人件費に使わなければいけないため、現実的な人件費率ではありません。
実際は、収入について弾力運用ができるため、どのように使うかは、法人の自由です。
ただし、処遇改善Ⅰの賃金改善分、処遇改善Ⅱ及びⅢは賃金として支給する必要があります。

公務員並みの給与は可能か

公務員並みの給与とは、国家公務員給与法に基づく俸給表に準じた給与のことです。処遇改善を利用した場合、国が想定する年収額を支払えるかどうかを計算してみました。

処遇改善を含めた収入11,640万円の72.8%を人件費に充てると、人件費は8,474万円となり、国が想定する年収額を支払うことが可能です。つまり、処遇改善を利用することで、やっと国家公務員並みの給与を実現できることになります。

非常勤職員の活用について

上記計算は、常勤のみ、もしくは常勤並みの時給を非常勤にも支給することを想定しています。
つまり時給2,200円程度を非常勤に支給することを想定しています。

しかし、一般的に非常勤の時給は常勤より低いため、非常勤の割合を増やせば、常勤の年収額をもっと増やすことや人件費率を下げることも可能です。

このように、処遇改善の活用により、保育士の給与水準を引き上げることができ、国が想定する年収額も支払える見通しです。しかし、給与配分や職員の構成は、各法人の運営方針によって異なるため、柔軟な対応が求められます。